詩『それは背表紙だった。(それは牙だった。)』

残された者がその存在の終わりにどこへ、行く、のかを知りたければ、
誰も生涯読み切れない場所で始まりに満ちる、均一な背表紙を、「知っている」、
と呟いて撫でるがよいと、自己紹介としての詩が、狭く机の上で無意味の、
ひろがりの彼方に繋がれている、これは私の無意味の療法なのです、「どれが?」、

異形の一千行には摩擦が無く、世界のどこにも位置しないということの、
幸福を知っている、存在に疲れた場所で椅子を作る、生活をしてみたかった、
座れなくてもよくて光らなくてもよくて在ることだけで許される、幸福を唱えてくれる、

本はひとつの椅子だった空虚な怪物だった、人間の理解を砂粒に変えた砂漠だった、
とはいえここが終わりであることの、意味を、考えずにはいられなかった、
椅子の終わりで、理解の終わった場所の、砂粒のような文字の煉獄だった、

背表紙は待つことしかできない待ち人だった(私も待ち人だったことがあって)、
地図の無い世界で地図を想像する、ことしかできない文字、その始まりに満ちた生涯に、
読み切れない砂漠を用意して私も、この場所に残されてみたいと思える、

二階は異界に通じていて、外国語は毎日黄金に変えられている、
無造作な集合、無造作な想像、背表紙には終わりも始まりもない、
後ろも前も私が基準になるように連続的な文字列に住む、文字列が住む、
人間の俗悪が組む、療法になる写真は撮ったか?私の無意味はどこまで滑るか?、

知ることの無意味が棚だらけの牙になる、怪物の口が口いっぱいの牙と、
口いっぱいの古びた香りに満ちている、これは私の牙になるものだ、と思った、
理解は拡がりを噛むことだった、拡がりから牙を抜くことだった、
異形の幸福は棚を牙として見ることだ、牙の余韻としての理解を取り出して、
新しい異形に触れよう生涯触りきらぬ場所で、「ここに繋がっている」と唱えて、
呪われたつるつるの異形の牙で、できた、もう一人の私をこの場所に喚び出す、

座りたいとも、光りたいとも思わぬ血が籠で、失われた天井へと滲んでゆく、
砂粒の意志として、無意味に並ぼう終わりじゃないよ始まりなんだよ、
始まりじゃないよ終わりなんだよ並ぼう、意味と並ぼう、唱えて座ろう、

私に牙を、牙に私を挿し込んで待とうここは、怪物の体内にできた砂漠だった、
どこへでも向かおう、なんだって残されている、永遠に残されてゆく。