詩『夏の訪問/樹の中の楽器』

Ⅰ:夏の訪問
タナトスの卵巣を信仰する、破滅思想に好かれた女が、遊具をなだめるように撫でながら、三十年間神になる。僕の、すまなそうに黙っているだけの、奇妙な戦争のさなか、彼女、ナイフの先が壊れるときの反論を許さない。

「君が弱くなったのは、気まぐれな夏の訪問のせいだとおもう。」

夏。窓から入り込んだ自由を育てるために、倉庫の隅々を、隅々じゃなくする祭りが開かれた。穴の空いた質量を入り口として、非国民の強奪船が着陸するとき、騎士団の目は抉られた。ならんだ球体(眼球)を笑うな。怒っているのは僕だけだった。

彼女を模した、人形制作の果てにあるのは、害虫駆除の仕事だった。疲れ果ててしまって、公園にも行かなくなった。死んでしまった鳩の代わりに、満月が顔をそむける夜を愛でていると、いずれ去ることが知られている、祈りを観測した。

21世紀。祈りの行列。誰もいないフロアーを水槽にすること。空腹に捧げられた電子レンジの虐殺。透過しスライドするグミの超越。人ひとりぶんの深さしかない湖のくしゃみの・・・。潤滑油で狂った腕が治るくらいなら、健康の天使である彼女は、その意義を失う。僕はそのことに我慢ならない。

単純な図式に意味が染み出すのと同じように、衛星は座るための氷河を探してまわっている。僕ら、期待しない人にだけお金を払った。見ないでくれてありがとう。やがて、復活を食らった終末の海の上。気球の中で喜ぶ彼女を見ていると、センシティブな自衛手段として幼少期を思い出す。

どこへつながるのか、晴れの日にだけわからなくなる道で、老婆が鋭く笑うことを教えてくれた。疎開したほうがよかったと、きっとあとでわかる。そういつも彼女に諭されたけど、増幅されたのは関係じゃなく、裏切りを顕性遺伝させる事故処理のほうだった。


Ⅱ:樹の中の楽器
僕達の人格が変わると同時に、全てが叶えられたその日。火の成分が終わりをむかえた時代。現代をたたえたような冒険はなかったけれど、完璧なサバンナの空気はまだどこでも見られた。ここでの救済は砂のように生きることのみになった。

僕には一人妹がいる。雑音を集める趣味を持ち、国家の刻印を求めた女の葬儀で、法曹の平らな声を加工した音声を流していた。
「まずは色から始めよ。」

「「まずは色から始めよ。」」

光のない暖流を進んだパスタが、真紅の洞窟をつくる。(浜辺。ボロボロになっている小屋の中。)奥の広い空間では、小指の傍観者を相殺する魂について明らかになる。(人が生まれる瞬間。津波が気をきかせて僕たちをさける。)

檻のなかに吸収される彼女が、水の祝福を聴いた。水源はこの下でしゃがんだまま、ひたすら壁を叩いている。五万九千ニ回目の反響。それを見るものはもはやない。優秀な単細胞生物たちと共に、技巧をこらした沼の形を決める。その沼に心を与えて狂わせる。

腕にまかれた、構造の無い静かな万歩計が逆さまに朽ちて、僕の断面図は失われた。その無音を聴いていると、いつの間にか部屋に一人。黄金に輝いた鍵盤に、群れをなして舞い降りる、宝石でできた虫たち。

〈叫べもしない誕生〉を意味する〈植物園の土〉〈降霊術のためのスープ〉。それがどこまでも続く光景に飽きたから、あしたには消える予定の、粉末状の自転車に乗って逃げる。

いつかの命令。
「花の名前を覚えておくこと。」
彼女、幽霊になってもそのまま勉強をつづけるだろうか?

いつかの告白。
「知ってるか?誰にも見えない樹の中に、私だけが弾ける楽器があるんだ。」