20231018

昼は居酒屋のランチメニューにした。メンチと明太子と鶏肉と野菜の細切れになったものと、あと知らない何かが一緒くたにお盆にのっている日替わり定食を食べた。店のなかが狭いって本当に最悪だなと思った。席に座るときに肘を2,3回ぶつけてしまった。狭すぎる、居酒屋だ。毎日、少しずつ狭くなり続けているのかもしれない。狭さのなかで右往左往しているうち、客たちは細切れとなり、居酒屋のなかの塵と化したのかもしれない。居酒屋のなかの店員には五つの目があると言われている。有名な話で、右の手のひらに五個、左の手のひらにはゼロ個、顔面にゼロ個腹にゼロ個背中にゼロ個・・・というわけだ。(誰しも一度は聴いたことがあるはずなのに、僕はその時その話を完全に忘れてしまっていた。)店員がやってきて、右の手のひらをスッと見せてくる。そこには五つの目、すなわち五目が見開かれていた。僕がウオッと驚いている隙をついて、店員は笑いながら食べ終わった定食のお盆を速やかに持って行ってしまった。僕はなんたる手腕か、と吃驚した。まったくあっぱれな店員であった。気がつくと居酒屋は一個の巨大な迷路になっており、それは地球を象徴していた。僕たちの世界はまさにこのようにして迷路となったのだ。そこらじゅうの行き止まりで人々が斃れている。迷路の真ん中には巨大な火が焚かれており、それはどう見ても星のコアと呼ばれているものに違いなかった。僕はコアを横目に、少し眠くなりながら居酒屋を出た。

 

雲ひとつ無い青空の下、真昼の道端で、人が大勢で歌っていた。いかにも耳障りな、素人集団による浅はかな斉唱であった。全員が少しずつ音程を外していて、誰も本当の音程では歌っていなかった。狙っていたかのように全員が汚い発声で、全員が声を、前ではなく、彼ら自身の内側へ向けていた。それで、声は常に口からではなく、腹や肩、背中から、その表面が震えることによって、鈍く出力されていた。口から出てこない声がこんなにも、気持ちが悪く、人心を不安に陥れるものだとは知らなかった。ぼこぼこと粘性のある水面から、空気が溢れるような音が鳴り続けている。もう勘弁してくれと僕はささやいた。いったいなんだというのか。はたしてこんな往来で真昼にやるようなことか。歌を聴いていて、段々と、そんな歌なら、僕でも簡単に作れるだろうな、とそう思った。「あー」と言ったとて、それは一定の「あー」ではなかった。「あ」以外の音で構成された「あー」なのである。よくよく聴いてみれば、「ぴ」や「きょ」だったりするのだ。つまり聞こえてくる「あー」というのは、脳で作られた幻想なのであって、言葉は頭で想像するとおりには発声されていない。誰も、実際に出力された音声には興味がないのだ。それから連想された、それと紐づけされた脳内の音、それをのみ聴いているにすぎない。そういうことだ。(ぶくぶくぶく・・・)