『否定漁者の根深い不可視』

存在の体内への侵入を防ぐ、ただいっぽんの透明な腕さえ、持ちえないのだと気づいたとき、
ぼくはできる限りの闇黒をそばに掻き集めて必死に叫ぶしかなかった、「否定よ、ぼくを守れ!」
世界への否定を反復することでのみ、ぼくとは何かという輪郭が明らかになっていく気がした、
否定は世界を曖昧に変換し続ける天使の機械化呼吸を水中とし、有限に有限を重ねることで、
さらに遠くを見ることのできる望遠鏡的投網漁だった、辺り一帯を埋め尽くす有害な稚魚どもを、
寝ながらにして捕えるために、光の失われたあなたの目をとおして見える世界を大事にしたい、
既にいないのだと知りながら壁のむこう側に声を渡し続ける夜を、どうにかして救いたいと願いながら、
こうではないもの、ありえないものへと、否定の浜辺を歩いて接続すると、死の国へ向かう階段が実体よりも幻じみて、
そのほうがぼくらしいという理由で、手を差し伸べてくれるだろう、そのようになったとしてなお、
ぼくの腕は幽霊の腕ではないので、それに触れることは叶わない、憧れのようにも見えるだろうか、断じて否である、
ぼくはあなたごとを否定に巻き込みながら、嵐のような思念で肉迫することにしたいだけだ、
広く白い壁に突然生えた、光沢をもった細く強靭な黒い角、それに串刺しになる夢を見ているだけだ、
ひんやりと手に触れ、目に映し、脳は特に、言うこともなし、すると聞こえてくる、
ぼくと同じように「嫌嫌嫌嫌」とぼくか世界を咒いながら、ぼくが何かを見定めようとする角の声が、
それはやっぱりぼくの声の反射であるのかも知れず、あるいは自我を持った物体からの物声なのか、咒いに溺れたぼくは手足と世界の違いを忘れてしまう、
茶の間の思考のテレビの画素の隙間から這い出る雑音魚虫群、俯いて言おう、おかえりと、
ぼくは笑いながら決意した、《この世を消す》そして、そのあとに訪れる根深い不可視のなかにぼくを見出す、「否定よ、ぼくを現せ!」