『朽ち果てた肖像をなじませるための風雨』

整然と並んだ光の群れがうっと妄幻をひらく瞬間に
すでにこじ開けられた船のドアは分厚い肉の方へと沈み込む
奥も無い空間に対し完全に均一な偶然布団の勝率は
歯の閉じる音で表されている
近づけば近づくほど死体になってゆく緑色の眼球を
埋め尽くすように降り立つ十字モデルの赤い網膜たち
過ぎ去る過ぎ去る手のひらを追って過ぎ去る
ノイズ混じりの住めない町の育っちゃいけない植物的暴力が
石で囲われた墓地の中央に舞台を構成する
それは時に虚無に向けられた椅子を自然発生させ
朽ち果てた肖像をなじませるための風雨がやさしく撫でた
水紋と同じように果実の幾何学は広がっていると知る
廃品と廃品のあいだを縫って抱き合う木々に
骨になった手を合わせ記号と鶴が座りこんで時を止めたような庭に
ようこそと枯葉も騒ぐ首と腕を失いながら肩に古びたタオルをかけて
いつでもこれからこの世のある区画においては
自由だという空気を出しつつも永久じっとして
土を拒んだままの体で時が止まってしまう
かれよかれよという間に色彩のたそがれが来て
それから座っていたはずの骨組みはどこかへ染み込むように消えた