詩『書かれたことに導かれるな』

書かれたことに導かれるな
細い糸を辿ると山の頂点でしたという夢を見ているのか?
細い糸は少し進んで途切れている
そしてそれは血に塗れている

ぽたぽたという狂気をもたらす音が脳を衣服として見た時のボタンを
全て誤った対象へと結びつけていく
ぐちゃぐちゃに波打つ裸の君のエプロンにはそれくらいでちょうどいい

僕の体は予め開けられている
穴の内側に拘束されている
誰かが僕のへそのへこみに
どろどろの憎しみを流し込もうとしている

青色い血で耳や鼻の穴が塞がっているのを見て驚いたのは僕の娘
いつから生まれていていつからここにいたのだろう
娘にふれると
娘は百万字に分裂してしまう
長い長い物語のようでつじつまは無くて
あるいは手紙だったのかもしれないと思う前に字の誘惑に負けた
一文字一文字が運命の時系列的連関から解放されて自由になっていて
本当に愉しかったまた次もと思う

心はそれを着てそこから着るものへと変化していく
織られた心あるいは折る手足へと歩みを進める
世界は下り坂になっていて
壊れた車輪がそこらじゅうに投棄されている
ここではゴミの楽園が設計されていたけれど誰かがやめさせたらしい

導かれるな
いや
導かれたことなどない

時間は有限なのに洗脳されている暇などないというのに
暇人達が君のへそ穴に青色の叫びとともに殺到する
絶えず新たに浮遊し始めるボタン
細い糸は首の周りをぐるっと回って前進すると首を切断することができる
物理だ
偉い人は言った
もう誰も死ぬことはなくなるだろう
道理だ

書かれたことに導かれるな
心に意志を見出すな

静かな波の上に流されていく水より軽い僕の胴体たち
道を間違えていることに気づいた自動的に服の着方を学ぶゴミたち
ここは腹の内側に閉じ込められたゴミだらけで困ってしまう

釣り糸で全身を貫かれた不死身のカラスが歩いてここまでやってくる
エプロンの中身の死を証明するために疲れた様子で青い目を僕に差し出す
僕はそれを自分のへそにはめて崩れた娘の文章を読み始める
娘の体はひとつの繋がった文章を成していた
ときにはそれは日常の動作でありときにはそれは夜寝る前に見る幻覚だった
ときにはそれは僕を殺害する計画でありときにはそれは僕を殺害した

ゴミの記憶から生まれた僕はゴミの娘にゴミ戻される
読んだだけ呼んだだけの罪と罰を読まされて会話も失くなる

導かれた結果
僕の腹自体が海や山や糸の集まりと同じ意味を持つようになり
それで誰かが困ることもないということに気づく

それで誰かが困ることもなかったのだと