20240117

何も起きない真空的な空間がそのまま物語になったようなものを見てみたい。飾るもののない空のガラスケースをいつまででも見ていられるようなものだ。そこにへばりついて熱心に何かを見てとって楽しんでいるひとりの人間がいる。それは誰でもいい。とにかくちょっと血走っためをしていて、呼吸が浅く、口からはひとりでにおおお~といった感嘆の声が漏れ出ている。手足なんかはもうだらーんとしてしまっていて、首が浮いているのに胴体が流れてついていっているような感じだ。ちょっと危険な感じがする。近寄りがたい。さてではガラスケースの中には何があるのか。本当に何もない!磁性流体がふよふよと何かに反応して動いているか、それとも火のようにランダムなものがちらついているか、そういうのが虚無だって人もあるでしょうが、本当に一切のものがそこには無いわけです。何か想像力のきっかけになるようなちょっとしたこともない。それは家主のいない家であり、雲ひとつない青空であり、客のいない廃墟のモールだ。あるいはそれらよりもっとひどい。ノスタルジーですらない。チルでもない。ナッシングだ。真空であり、何万光年も何もない空間の続く暗黒のスペース。なんと、ここではそれが物語の形を成している。不思議ですね。でも、実際にそうなっている。見たらすぐに分かる。あ、これは確かに何もない、と。手に持った瞬間分かる。あるいは本の真ん中を適当に開いたときに。あ、とあなたは思うはず。これが本当になんにもないってことなんだと。