詩『違う場所にいる(異空間の)犬なのか』

犬のしっぽ 取れるよ 
取れかかったボタンのように
ふらふら揺れてるから 今にも取れることが想像できるよ 
現世に心残りがあるみたいに今にも取れそうだ 
道に落ちてしまう前に 補強 補強 補強しましょう
納得いくまで 頑丈になるように しっぽを肌に縫い付けて
二度と取れないように 誰にも奪われないように
くっつけておきましょう

一切の躊躇も無く 場所モドキの 模型を壊したい
本物じゃないことばかりで辛すぎるから 本物という概念に触れたくないから
嘘を愛せないことがコンプレックスなのかもしれない 嘘を嘘として愛せないことが
経験することがそんなに偉いのか 
椅子に座ったまま事件を解決する探偵に憧れたいのに 
この世は地道 一歩一歩が泥沼 沈む足に浮く足が追いつかない

経験は凄い 血肉にまみれるのは凄い
見たもの 感じたものをそんなに体にしまって そんなに膨れ上がってどうする
誰にも盗まれたくないから 引き出しにしまう 引き出しはいつしか入り口になった
四次元空間の記憶 そのなかの空気は? 温度は? 匂いは? 
誰も知らないし 時計は歪んでいるのに その場所で呼吸できると 信じられる

地図を静かに開いて 
静かに畳んで 
また開いたら折り目がついている

息を潜めて 上空から目を細めていると その場所に犬がいることに気がつく
しっぽの取れかかった犬が 僕の目の前で歯を見せている 舌は湿っている
五感の全てで世界を構成しているんだろうか 何も考えずに 
自動的に頭が働いて 無邪気に作られた世界 
無邪気さ故にしっぽを失うとも知らず 目を輝かせて動物を演じている

地図の読めない人にも襲いかかる複雑さ 人間が作ったネットワーク 
目印の無い世界 どこにもいけない真っ白さの中で 犬のしっぽを拾ったら
そしたら たちまち世界は方向で溢れた しっぽの持ち主を探さなければ!
僕は流されてしまう たったひとつの考えにしがみついて安心する 
「こっちだよ」と言う声が全ての方から聞こえて困ってしまった 
なんということだ 皆が違う場所にいる(異空間の)犬なのか