詩『もはやなんの面影もない無関係の君が鏡に映っている』

ああ、またか、「まっさら」だ、と呟いたなら、
歯が、舌と共に浮きあがったなら、
もはやなんの面影もない無関係の君が鏡に映っている、ということにどうしてもなる、
彼はずっとそこにいる、と僕は気づいている、視界の後ろに、常にいる、
そうです、背後霊としての僕のことです、

真実味のするお茶がすぐにもぬるくなって毎日のように捨てられていく、
裏・表、全て嘘だったのだ、
いつもの水流・自己死する明るさ過食のトンネルを思い浮かべる、
暗黒・飢餓の敵だから、
溺れるほどの対称に、上を見てしまえば十分だこれでと悟る、
曼荼羅を見るまでもない、
僕自身も世界の法則に従っているのなら、
さいごにどうなるかまでは考えなくていい、
僕の心臓はそうやってできた、
君が今まさに説明したとおりに動いているのです、
「ですが」、と続けようとしたところで、
何かもっと重要なことが、もう失われているという事実に、
どうしても出会ってしまう、これが辛い、
それ以上の意味を神話のなかの剣に求めてももう遅い、

最小単位から法則に従って導かれるのが僕なら、
僕という最後尾はいらないはずだという論理です、
一番小さなものでいつでも最大幸福できるはずだった、
瞬間殺しの異名を持つ時間という名の無慈悲が、
今日も僕の幸福を遥か彼方に置き去りする、
どんな竜も飛行機もそれに追いつけはしなかった、
「無かった」のかと思うくらい、全て間違いだったのかと思うくらい、
すべてを吸い込むものがそこにはあった、
虚無の薄皮を重ねるのが上手な神様の唯一の仕事だ、
僕は錯覚し、驚愕し、そして幽霊になった、

僕が子供ではなく孫でもないのだとしたら(当然のように父でも祖父でもない)、
「お前は誰だ」と問うものを無視できて、
それでいて命に頼らない生活を語ることができるかもしれない、
魂の抜けた離脱の美しさよ、背筋が伸びる金属的な許しよ、
いつの日か、僕が僕と「それ」の違いを明らかにして、
ただ僕としてこの世に存在することができるだろうか、
モニターの向こう側にあるものとこちらがわを隔てている重力と肉の虹よ、

「嘘の空気を循環させて新鮮な嘘を常に取り入れましょう」、

雲の上を突き抜ければ静かで星を見る目を妨げるものがないと思っているのか?
人類は意識に作られた視力の城を崩し、世界情報に目で触れたいと願っている、
最小にして最大の広がりを見せる法則が大昔に見つかった、法則を作る単位、
このように飛行機に乗って単位法則の剣を異世界で振り回していると、
顔面は数十億年かけて分裂していく大陸のキュビズムのようだと思う、

どこにでもいるものをどうにかしてこの目に入れてみせよう、と意気込む、
そうしたところで、しかしほんとうにどこにそれがあるというのか、
僕は背後霊ではない