詩『雨の日』

雨は
戦艦の影の形で
黒い傘をさして歩き続けた男を褒めて
祝いのつもりで熱を奪った

畦道をやすやすと薙ぎ払う
朽ちた無限を生む木槌に名前はなく
ただずっと前からここに落ちていて
この人がそれを拾った
それだけのこと
恐らく、この神話の遺物は
色を持たない蛙の心を鎮めた後に
静寂を求めて隠れていたのだ

停滞する霧が澱んだ人流の盾となり 
野性を包み込む仮面の時間の槍を避けて
無関係の目をした通行人に直線となって絡みつく

ずぶ濡れた屋根に刻まれた破壊のきずあと
その隙間から覗くもの
秘密の斑の目による主張を
水滴の自由さを持った歌声に変えて流し込む

長年のうらみつらみで鍛えた固体
吸水性の無い肌を持つ
空に寄る近眼が見た答えは
唐突な日の光によって焼き尽くされた

首は長くのびたまま
半開きの口に雨の記憶が垂れている
木製の右手は「しん」と乾燥していた
全てのものごとが
わざとらしく定位置について
次の一歩を待ちわびていた